petrichor

 

郵便局にパンフレットなどの送付の為に外出する。

外に出てみると雨が降っていた。

オフィスはブラインドが降りていたので、雨が降り出していることに気が付かなかった。

 

「傘を取りに戻らなきゃ...」

エレベーターに逆戻り。

溜息をついているとエレベーターのドアが開いた。

 

「どうした?」

降りてきた上司に声を掛けられる。

「雨が降っていたので傘を取りに戻るところです。」

 

彼は外をちらっと見て言った。

「小雨だな...

 郵便局まで行くんだよな?!」

「そうです。」

 

彼は笑顔で言った。

「ご一緒しませんか?」

と...

 

促されるまま、彼の隣を歩いていた。彼の傘に入りながら。

上司といっても他部署で、少しだけ懇親会で話したことがあるくらいだった。

何を話すでもなく、ただ二人とも黙っていた。

 

郵便局までの距離があっという間に感じた。

「ありがとうございます。」

 

「帰りはこれを使って。」

彼は笑いながら鞄の中から折りたたみ傘を出して私に手渡した。

 

面食らう私に

「一緒に歩きたかっただけだ。」

そう静かに言って背中を向けた。

 

私はそのまま、彼の背中を見送っていた。

「しまった、惚れちゃったぞ...」

戀は突然訪れる。素知らぬ顔して、見知らぬ顔して、不意にやってくる。

 

 

仕事が終わって真っ直ぐ帰る気持ちにならず、いつものお店に向かった。

カウンターに座り、ソムリエールにお願いした。

 

「雨の...

 濡れたアスファルトの匂いがするワインってありますか?」

 

ソムリエールが

「ぇえ??」

と少し困りながら、いつもの柔らかな笑顔で私を見ていた。

 

ソムリエールは少し考えた後、セラーから一本ワインを取り出し、氷水の中に沈めた。

「冷たくするから、少しお待ちくださいね♪」

 

ほどなくして、ソムリエールがグラスにワインを注いでくれた。

それは白ワインで、しっかり冷やされていて、グラスが直ぐに結露して白く曇った。

 

「シレックスという鉱物が畑にごろごろ転がっている土壌で、特有のミネラルを感じるワインなんです。

葡萄品種はソーヴィニヨン・ブランです。」

 

ソムリエールの説明を聴いた後、ゆっくりグラスを近づけ香りを確かめた。

「濡れたアスファルトやコンクリートの香り!!」

 

グラスの結露も雨を思い出させてくれる。

今日の彼の笑顔を思い出しながら、ついニヤついてしまっていた。

 

「思い出に香りがあるなんて素敵ですね❤︎」

カウンターの向こう側で、ソムリエールが悪戯っぽい笑顔を向けていた。

 

                        

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Terre de SILEX

フランスのロワール地方、サンセールの土壌は石灰岩(calcaire)と石灰岩質泥灰岩(marne)とシレックス(silexe)のいずれかです。

Vignobles Berthier社は、この三つの土壌の違いを楽しめる三種類のワインを造り出しています。

 

シレックスとは火打石の意味で、この土壌から生まれるワインは火打石を吸ったような火薬の香り(ガンスモーク)を持ち、ミネラル感の強い味わいが特徴的です。