If I had one wish…

 

 

少しづつ暖かくなっていく。

散歩でもしようかと、栞は薄手のカーティガンを手に取った。

 

オオイヌノフグリタンポポが道端を飾っている。

花たちが、寒かった冬がようやく終わることを告げていた。

 

公園の一角に大きな白木蓮の樹があった。

百合のような花を咲かせるこの花木が、栞はあまり好きではなかった。

 

木蓮を見ると思い出してしまう歌。

つい口ずさんでしまう歌。

 

「逢いたくて逢いたくて

 この胸のささやきが

 あなたを探している

 あなたを呼んでいる…」

                 ”木蓮の涙より”

 

木蓮は紅紫色の花だが、この歌には白木蓮が似合うと栞は思った。

 

「ねぇ、私はもうあなたより歳上なのよ…」

 

栞にはもう二度と逢えない、逢いたくても逢えない人が記憶の中にいる。

思い出の彼の時は止まったままなのに、自分だけが歳をとっていくことの悲しさは言葉に出来ない。

 

病室の扉を開ければまだそこに居て、私はなかなかお見舞いに行かないだけで…

そんな感覚というか、そんな気持ちが、今も心にあるのだった。

 

 

「栞さん!!」

木蓮を見上げている栞に、少し遠くから声を掛ける女性。

 

「和織さん…」

和織は栞のお気に入りのワインバーのソムリエールだ。

 

和織が栞に近づいて来る。

栞の目から涙が零れた。

 

「栞さん?」

「和織さんの顔見たら、何だか涙が…」

 

和織は白木蓮を見上げ

「栞さんにも、もう一度逢いたい人がいるのね…」

そう言って静かに微笑んだ。

 

「ねぇ、昼飲みしません?

 店、開けるから。」

 

二人は何か会話するでもなく黙って並んで歩いた。

言葉を交わすことはなかったが、時折お互い振り向き、お互いに笑顔を交わした。

 

店の扉を開け、和織は店内をめいっぱい明るく照らした。

いつもの明るさを絞った店内とは、まったく違った雰囲気だった。

 

ウイスキー飲めますか?」

和織は棚からニッカの余市を取り出した。

 

ウイスキーを飲むことないです。」

栞はウイスキーを飲んだことがなかった。

 

「栞さんには、少し蜂蜜を入れますね。」

和織はグラスの中で余市と蜂蜜を混ぜ合わせ氷をひとつだけ浮かべた。

 

木蓮の涙って歌、知ってますか?」

和織が栞に訊いた。

 

「実はさっき公園で歌ってました…」

俯きながら栞は答えた。

 

「ニッカのCMで流れてたんですよねぇ。」

「それで余市?!」

 

和織は笑いながらグラスに余市を注いだ。

栞は和織がストレートで飲む姿を見ながら、こういうカッコイイとこが好きだなぁと改めて思った。

 

栞も自分のグラスを手にし、ゆっくりと恐る恐る口にしてみた。

ほろ苦くて、ほんのり甘い。

 

「飲めました!!」

栞の元気で嬉しそうな声。

和織はやっぱり微笑んでくれていた。

今日はカウンターの向こう側ではなくて栞の隣で…

 

        

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ニッカウヰスキー

創業者・竹鶴政孝ウイスキーづくりの理想の地として選んだのは北海道 余市

余市」は複雑で深みのある味わいと柔らかな樽熟成の香り、そして麦芽の甘さが程良く調和された素晴らしいウイスキーです。

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