like a fate   

 

休日の一人飲み。

日中の明るい時間に飲むことが好きだった。

夜一人で飲むと淋しい気持ちになってしまうからだ。

 

ワインを楽しみながら、買ったばかりの小説を開いた。

 

 人の気配に本から視線を外し、ゆっくり顔を上げた。

私の前に老紳士が立っていた。

 

 

「神様はあなたに会いに来てくれましたか?」

彼は柔らかな笑顔を私に向けていた。

 

宗教の勧誘?!

と驚いていると、彼は私の首に掛かるロザリオを指さした。

 

 

首に掛けたロザリオを押さえながら私は答えた。

 

「神様っているんでしょうか?

 そう思うことのほうが多いです。」

 

 

彼は微笑みながら言った。

「神様はいますよ。

 私は神様がサイコロ遊びをする目撃者ですからね。」

 

「えっ...?」

何を言っているか解らなかった。

 

 

神はサイコロを振らない

 そう言ってアインシュタイン博士は量子力学を死ぬまで認めようとしませんでした。

 しかし私は不確定性原理を学んだ、神様がサイコロを投げる瞬間の目撃者です。

 

 観測をしているとね、こんなことは神様じゃなければ出来ない!!

 そう思うんです。

 

 いかさまをやらないで出る目を読むことは出来ません。

 必要なのは出た目にルールを与えることです。

 神様が投げたサイコロの目は最初から決まっている訳ではなく、私たちが観測し

 認識した時点で収束し決定します。

 

 その目にどんな意味を持たせて行くかは人間の仕事なんです。」

 

 

私は何を言っているのか理解出来ず、困惑するばかりだった。

そんな私の顔を見ながら、

「ボトルを頼んだら一緒に飲んでくれますか?」

と彼は言った。

 

 

唐突だなぁと思い少し迷っていたのに

「いいですよ。」

と答えてしまっていた。

 

 

私の返事を聞いて彼が選んだワイン。

 

ラクリマ・クリスティ・デル・ヴェスヴィオ

 

「キリストの涙ですか…」

 

「イエス様の涙で出来たワインなら、貴女の心を温めてくれそうでしょ?」

 

「私、淋しそうな顔していましたか?」

彼の言葉に、私は少しイラついていた。

 

「自分は幸せだと思っていますか?」

 

大きなお世話だと思いながらも、のんびりした彼の空気に強く言い返せずにいた。

 

「幸せが何か…

 正直判りません」

 

彼が私のグラスにワインを注いだ後、私の手を握ってこう言った。

 

「貴女は貴女の手の中に、ちゃんと幸せの種を持っています。

 ただその育て方を知らないだけです」

 

 

神様が会いに来てくれた?

それとも天使の化身?

でも彼の背中には羽はなさそうだった。 

 

 

       

          

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昔々、悪事の限りを尽くし神によって天国から追放された天使サターンは、天国の土地を一部持ち去って逃げました。
 
その途中で大天使サターンは盗んだ土地を落としてしまい、その場所にナポリの街が出来ました。
 
ナポリはその後大きく繁栄を遂げますが、街の人々が驕り悪徳の限りを尽くすようになり、すっかり荒廃していくのでした。
 
そのナポリの悲惨な様子を天上から眺めていたイエスは、あまりの悲しさに涙を流します。
その涙が落ちた場所から葡萄が育ち、その葡萄でワインを造ったという伝説があります。
 
この伝説から生まれたワインが「ラクリマ・クリスティ」です。 

 

 

(DOCヴェスヴィーオのうち、アルコール度数12%を越える上級ワインについては、

 DOCラクリマ・クリスティ・デル・ヴェスヴィーオ とワンランク上の名称となります。)