「初めて抱いてくれた時のこと覚えていますか?」 女は男の顔を覗き込みながら訊いた。 「七年、八年も前のことだぞ。 覚えていない。」 少し膨れながら女は言った。 「男の人って忘れちゃうものなんですね」と… 行きつけのwine barの扉を開く。 「いらっし…
私は小さなワインバーを営んでいて、あのひとは時々みえるお客様。 どういう経緯でかは覚えていないけれど、オフの日に一緒に食事をする約束をした。 お店の予約はあのひとがしてくれて、互いに一本ワインを持ち寄ることになった。 自宅のワインセラーを覗き…
休日の一人飲み。 日中の明るい時間に飲むことが好きだった。 夜一人で飲むと淋しい気持ちになってしまうからだ。 ワインを楽しみながら、買ったばかりの小説を開いた。 人の気配に本から視線を外し、ゆっくり顔を上げた。 私の前に老紳士が立っていた。 「…
今朝の私はどうかしていた。 イライラがMAXで一人で深酒していた。 いつ店を出たのか、それからどうしたのか、何も覚えていなかった。 覚えていたのは誰かと会話をしていたこと。 誰かとは男性だった。 私が目覚めた時にはその男性はいなくて。 私はホテルの…
「どうして連絡くれないの?」 「どうして電話に出てくれないの?」 「そんなに私が嫌なの?」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「私の何が嫌なの?」 「キチガイか....」 黒田はスマートフォンを見ながら吐き捨てるように言った。 どうして女はこうも連絡を欲しがる?…
少しづつ暖かくなっていく。 散歩でもしようかと、栞は薄手のカーティガンを手に取った。 オオイヌノフグリやタンポポが道端を飾っている。 花たちが、寒かった冬がようやく終わることを告げていた。 公園の一角に大きな白木蓮の樹があった。 百合のような花…
オフィスはいつも乾燥していた。 PCが何台も稼働しているし、空調はCPUの為に動きっぱなしだからだ。 「大丈夫か?」 背後から上司の塚田が声を掛けた。 ずっと咳が止まらない里香を心配していた。 「アレルギーで喉が炎症を起こしているだけです。 ご心配く…
「離婚したいと妻に言われたんです。」 男性客はとても疲れている様子だった。 この男は、ちょっと変わった性癖を持っていた。 それを妻には話せず、ずっと結婚生活を続けてきた。 ある日、男は自分の性癖を満たしてくれる女性と出会ってしまった。 SNSで同…
「和織さん、今晩和。」 「いらっしゃい裕ちゃん。 こんな遅い時間に来るなんて珍しいねぇ!!」 裕はこの店の常連で、和織はこの店のソムリエールだ。 「和織さん... 私、今さっき男を捨ててきた。」 「ぇええええ。」 「ちょっと酔い醒ます?」 和織は冷た…
郵便局にパンフレットなどの送付の為に外出する。 外に出てみると雨が降っていた。 オフィスはブラインドが降りていたので、雨が降り出していることに気が付かなかった。 「傘を取りに戻らなきゃ...」 エレベーターに逆戻り。 溜息をついているとエレベータ…
「来週は逢える?」 「来週逢おうね。」 だけど... 彼からの具体的な日取りの連絡はない。 「今週は逢えないの?」 「ごめんね。バタバタと予定が入ってしまって、今週逢うのは無理なんだ...。」 それって言ってくれてもいいことなのでは? 彼はいつもそうだ…
静かな通りに ひっそりと その waine bar はあります そこには女性ソムリエがいて 戀する老若男女が集っています そしてその女性ソムリエもまた いつも戀しています 樽から瓶詰されたワイン一本一本は 誰の元に向かうか決まっています 人とワインの出逢いと…